もうすこしで天竺

読書記録など。

アニメ『刻刻』【ネタバレあり】

Netflixで出てきたので、なんとなく1.5倍速で一気見。なかなか楽しめた。

 

タンマウォッチで静止した世界で、半グレを雇った宗教団体とある家族が争う。ワンクールしかやらないことが決まっている作品と思われ、一人一人の人物に見せ場と退場(現実の時間に戻る)のタイミングがきっちり決まっており実にシステマティック。あれ、もう退場かという人がけっこういたけど割り切っていて良い。素材としてはたぶん、近頃流行っていると聞いたことのある「宗教にはまった家族から逃げ出した体験を書いた本」と、これは間違いなく流行りの「親ガチャ」なる考え方。

 

静止した世界では、人間の意思がその人のあり方に大きく影響を与えるようだ。物語の結末では、同じ願いを持った二人の人間が二つの大きく異なる結末を迎えている。それが面白かった。

 

【ネタバレ】

 

そのうち一人は、敵対する宗教団体の長。静止した世界の原理を応用して世界の行く末を見届けたいという。これは要するに「死にたくない」の究極的なバージョン。この人は結局、時間が逆向きに流れ赤ん坊にまで戻ってしまう。俗に言う「親ガチャに外れた」ことがトラウマだったこの男にとっては、こうして赤ん坊に戻って主人公の家庭に生まれ直したことは幸福な結末だったようだ。

 

一方でもう一人は、ナイフで胸を貫かれて倒れながら、「死にたくない」と願った半グレの男。この男はその願望のせいで化物に姿を変えるのだが、その力を戦いに利用され、結果として意思なく歩き回るミイラになる。この男、結局元の世界に戻されることもなく、静止した世界に唯一放置される人間となった。化物となった肉体は朽ちることなく、永久に静止した世界を歩き続けるのだろう。

 

別にどうと言うことはないのだけど、タンマウォッチというひとつのアイデアからよく話を広げられた佳作だと思う。「親ガチャ」という考えは自分の「始まり」に思いを巡らせるものだけれど、上記の二人の運命を含め、その反対である「終わり」についても、主人公たちは考えさせられたのだろう。だからこそ、彼らの「動いている世界」における生活は、静止した世界から退出したあと変化を迎えた。ヘンな癖も少なく、物語に必要な要素を押さえた良作。