もうすこしで天竺

読書記録など。

映画『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』

東大900番教室で行われた、三島由紀夫と東大全共闘との討論会の記録。

 

特に三島のファンというわけでもないのだけど、なんとなく彼の人生には興味がある。ぼんやりと見ていたのだが、かなり面白かった。

 

三島の語り方でいちばん印象的なのは、内田樹が映画内でコメントしていたとおり、三島が学生に対して一切、矛盾を指摘しもしないし侮るような言葉を投げかけもしないこと。ただし、挑発的な言葉を投げてはいた。しかしそれもユーモアの範囲から外に出ることはなかった。(三島はなんでもユーモアにする。自分でも相手でも。これができる人は100%すごい人)

 

途中までは議論において学生が上回っていると思えるところもあった。この人、三島よりも見所のある人間なのではないかと思える学生もいた。彼の三島評は適切と思えた。だがそのような学生は、議論が長引くにつれ、一定の線を譲ろうとしない三島にいらだち、嘲笑し、席を立っていた。結局この学生は、自らのそうした態度によって三島に上回られてしまっているように見えた。経験の差なのかもしれないが、そこには厳然とした差があった。(70才を過ぎて当の元学生がインタビューに応じていた。彼の三島に対する態度は変わっていなかった。ただ、この人物はやはり鋭い。あの時代が「言葉による対話が意味を持った最後の時代」という指摘はたぶん正しいだろう)

 

エンディングで、現在の東大900番教室の映像が流れた。全共闘時代の荒々しい雰囲気は一掃され、小綺麗な現代の一教室に過ぎなかった。かつての姿を思わせるものは、壁面の特徴的な柱のデザインしか残されていなかった。

 

かつてそこにあったものは、すべてその真新しい机や椅子に、壁の塗装に、そして空気の下に覆い隠されてしまっている。三島と当時の学生に通底していたものが再び表に出てくることはあるのだろうか? もはや三島も学生運動も、「昭和史」という名の過去として流れ去ろうとしている。

 

見方によっては、今の時代の「静けさ」こそ異質なものなのかもしれない。