もうすこしで天竺

読書記録など。

2016-01-01から1年間の記事一覧

手塚治虫『アドルフに告ぐ』

戦時中の日本とドイツを舞台に、アドルフ・ヒトラーに直接的・間接的に関わることで人生が変わった人たちの物語。小学生のとき、夏休みの宿題で読書感想文を書いた記憶がある。 主題は、感情的には強い結びつきがあっても、民族主義や軍国主義によって引き裂…

かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』

これは物語であるというよりは、「核なき世界はどのようにして達成されるか」という政治的なシミュレーション。 主人公の原潜艦長・海江田は、探信音を敵に当てることで魚雷攻撃の予告をするという「シミュレーション的な」戦術をとると作中で描写されるから…

大岡昇平『ハムレット日記』

先日の『野火』に引き続き、同じ文庫本に載っていた中編を読了。『野火』ほどではないが面白かった。 やはり戦争体験者だからなのだろうか、何気なくだけど死についてきっちり書いている。シェイクスピアの『ハムレット』と言えば、無念のうちに死んだ父の亡…

大岡昇平『野火』

終戦記念日だし、戦争小説でも読もうかという気分になった。小中学校で受けた反戦教育の賜物だろうか、この季節になると戦争物を見たり読んだりしたくなる。 で、今年は大岡昇平。 「戦争もの」というジャンル小説のレベルを明らかにぶっ飛ばしていて、あま…

窪美澄『晴天の迷いクジラ』

思っていたよりずっと面白かった。野乃花という登場人物がすごく好き。 主人公は三人。デザイン系のブラック企業に勤務する由人、そこを経営する野乃花、それに高校生の正子。由人は会社が倒産の危機に瀕し自殺を図った野乃花を救い、二人は死までの猶予とし…

マルクス『経済学・哲学草稿』

あまりにも素晴らしかった。 マルクスの思想で「疎外」という言葉が大事なのは聞いていたけど、それがこうも深い意味だったとは。というか、マルクスがここまで人間的なことを語っているとは思わなかった。よくわからないまま植えつけられている「極左」的な…

カフカ「流刑地にて」

昨日読み終えたブッツァーティの『タタール人の砂漠』で、流刑地について言及があった。そのつながりで、今日はカフカの短編「流刑地にて」をさささと読んでみた。タイトルがすごく好きだったので、その存在は前からよく知っていた。 孤島の流刑地を訪れた旅…

ブッツァーティ『タタール人の砂漠』

ディーノ・ブッツァーティの『タタール人の砂漠』を読了。 図書館でたまたま手に取った岩波文庫だったが、ページをめくる手が止まらずに一気読み。 これはすごい。 ややファンタジーがかった舞台設定だが、解説に書いてある通り、まさに人生の物語。 若い将…

ハイゼンベルク『現代物理学の思想』:文理を問わぬ必読書

好きな詩人がタイトルにこの人の名前を使っていたのと、歴史番組で名前と映像が出ていたのとで、著作を手にとって読んでみた。テレビでは天才天才と言われすぎていて、本当はどんなものだと疑ってかかっていたのだが、油断していた。 読んだら、あまりの天才…

ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』:政治を語るうえで必読の書

この前、年下の男に政治の話を持ちかけられた。 酒の席だったからきっかけはよく覚えていないが、僕はすっかり「左」のレッテルを貼られ、相手は自分が「右」であることに満足を覚えているようだった。 相手が「右」を自称するのなら、と思って、そのときホ…

ハグストローム『株で富を築くバフェットの法則』:人とは違う思考がいい

ロバート・G・ハグストロームのバフェット本。 橘玲と、言っていることはかぶるところが多い。 ここに書かれている投資の原則を一言でいうと、「人とは違う思考をせよ」ということ。 なぜなら株式投資とは、他の人が目をつけていないところに先んじて目をつ…

橘玲『臆病者のための株入門』:リテラシー=バランス感覚を身につけよ

読んだ本の内容を忘れることを恐れる臆病者の読書備忘録スタート。 近頃、資産形成という言葉に興味がある。 なにせ年金基金は政府による運用の失敗で数兆円が一夜にして吹き飛び、この先も庶民の生活が向上するとは思えない。だから、私たちは自分の力で一…